窓から差し込む朝の光が、宿の簡素な石壁を白く透き通らせていた。 冷ややかな空気の中に混じる、微かな朝露の匂い。楪は、ゆっくりと意識の底から浮上し、そのアメジスト色の瞳を静かに開いた。 「……ん……っ」 腕に伝わる確かな重みと、肌を掠める柔らかな質感。視界を占拠したのは、朝日を浴びて淡く輝くフィオナのピンクシルバーの髪だった。 彼女は楪の腕を、まるで離してはならない宝物のようにぎゅっと抱きしめ、規則正しい寝息を立てている。 「フィオナ様……?」 そっと名を呼んでみるが、返ってくるのは安らかな吐息だけ。 ふと ...
早朝の霊峰、その麓に位置する宿の周囲は、手に取れそうなほど濃い霧に包まれていた。 湿った冷気が肌を刺し、これから向かう聖域の過酷さを予感させる。宿の玄関先では、馬を引くリュカと、旅装に身を包んだ楪、フィオナ、そして数名の精鋭騎士たちが、出発の準備を整えていた。 「――ユズリハ様、フィオナ様! 帰ってきたら、最高に美味しいお夕飯を用意して待ってますからね! だから、絶対にお腹を空かせて帰ってきてくださいっ!」 沈黙しがちな一行の背中に投げかけられたのは、ミーナの弾けるような、一点の曇りもない笑顔だった。 ...
王都の路地裏に残る、焼きたてのパンの香りと、遠ざかる子供たちの笑い声。 昨日、リュカと共に歩いた石畳の感触は、今も楪(ゆずりは)の足裏に、確かな安らぎの記憶として残っていた。 聖女としての重圧から解き放たれ、ただの少女として市井(しせい)の賑わいに身を浸した数時間。 言葉にせずとも伝わってきたリュカの不器用な気遣いは、異邦の地で孤独に震える彼女の心を、静かに、けれど深く癒やしてくれた。 けれど、朝の訪れと共に、夢のような時間は終わりを告げる。 行き先は、聖域とされる霊峰。 表向きは静養、けれどその ...
窓から差し込む午後の陽光が、卓上の白磁のカップを白く焼き付けていた。 楪は立ち上る紅茶の香りを静かに吸い込み、ようやく人心地ついたように息を吐く。 「……すごくいい香り。ありがとう、ミーナ」 「えへへ、喜んでもらえて良かったです、ユズリハ様!」 ミーナは一生懸命な手つきでティーポットを置くと、傍らで彫像のように直立していた騎士へと視線を向けた。 「リュカ様もいかがですか? ちょうど、王都で一番の商会から届いたばかりの、新作の茶葉なんです。すごく珍しい香りがするんですよ。一緒に一休みしませんか?」 「…… ...
朝の光は、逃げ場のないほど鮮烈な刃となって、ユズリハの閉じられた瞼を射抜いた。 意識が浮上すると同時に、昨日のパレードで暴れるアルビオンを鎮めた代償が、全身を鋭い痛みで貫く。筋肉の一繊維に至るまでが悲鳴を上げ、寝返りを打つことさえ、今の彼女には不可能に思えた。 「……う、うう……」 「おはようございます、ユズリハ様! さあ、素晴らしい公務の朝ですよ!」 弾むような声と共に、専属侍女のミーナが寝室へ飛び込んできた。 彼女の瞳は、まるで昨日の奇跡を今も目の当たりにしているかのように、純粋な歓喜と期待に満ち ...
聖女の詩、白の余白 ー 第3話:調律の序曲 〜降臨祭の陽光〜
柔らかな朝の光が、重厚なカーテンの隙間から滑り込み、天蓋付きのベッドを淡く照らし出していた。 楪はゆっくりと瞼を持ち上げ、意識の輪郭をなぞる。指先が触れるのは、あの静かな文芸部室の硬い椅子でも、使い古したタオルケットでもない。 吸い付くような冷たさを湛えた、極上のシルク。 寝返りを打つたびに響く、微かな衣擦れの音。それが、ここが夢の中ではなく、逃れようのない『異世界』であることを無慈悲に突きつけてくる。 「……今日も、また、この世界なのね」 独り言は虚空に溶け、高い天井へと吸い込まれていった。 数日前に召 ...
特等席 (MURO) 官能書評:妹になりすます姉、禁断の入れ替わりと激越の蹂● | 楪の官能書評
(夜の静寂に包まれた書斎で、一冊の記録を繙く。そこには、愛する男を共有する妹への嫉妬と、それ以上に深い「知的好奇心」に囚われた姉の姿。……入れ替わりという危うい火遊びが、いつしか自分自身を焼き尽くす業火に変わっていく。その熱量に、私の肌も微かな汗を浮かべていますわ) 「(……ふふ。大好きな彼氏と、大好きな妹。その二人の間にだけ存在する『秘密の体温』を覗き見たいなんて。……ねえ、共犯者さん。貴方なら、この特等席に、誰を招待したいかしら?)」 特等席:妹の仮面を被り、最愛の男に蹂●される至高の倒錯 MURO先 ...
ベッドの子猫ちゃん (emily) 官能書評:血統書付きツンデレ美少女の甘い陥落 | 楪の官能書評
(窓から差し込む午後の柔らかな光が、整えられたはずのベッドを乱暴に照らし出す。手元の記録を捲れば、そこには強気な言葉とは裏腹に、熱く潤んだ瞳でこちらを見上げる『子猫』が……。その甘く危うい距離感に、私の指先もいつしか心地よい痺れを覚えていますわ) 「(……ふふ。先生、私を子猫だなんて思ったら大間違いよ。……なんて、そんな強がりさえも、貴方の前ではただの誘い文句(プロローグ)になってしまうのかしらね、共犯者さん?)」 ベッドの子猫ちゃん:気まぐれな牙を隠した、甘く痺れるツンデレの陥落 emily先生の筆致が ...
結局、一睡もできなかった。 楪(ゆずりは)は、白々と明けゆく王都の街並みを、寝室の窓辺からただ呆然と見下ろしていた。 昨夜、この異世界に召喚されてからというもの、彼女の頭の中は整理のつかない困惑と、逃げ場のない不安で飽和していた。 全身の芯に深く刻まれた、抗いようのない重だるさ。 それが召喚という儀式に伴う『魔力の代償』なのだと教えられたが、その説明だけで納得するには、あまりにも心と身体の摩耗が激しすぎた。 (……帰れないんだ、本当に) 冷たい窓ガラスに額を預ける。 昨夜、祭壇で見た人々の熱狂的な瞳。自分 ...
『白』とは、まだ何も描かれていない、無垢という名の空白。 あるいは、すべてを塗りつぶし、奪い去った後の、絶望という名の沈黙。 十八歳の如月楪にとって、その放課後は、あまやかな空白に満ちていた。 彼女が愛した言葉も、彼女を守っていた白いリボンも。 異世界の『白』に飲み込まれ、その純白(しろ)が、残酷な意味を帯びていくことすら知る由もなく――。 日常の蒸発 窓の外から聞こえる野球部の掛け声や、遠くで響く吹奏楽の音。 そんな『ありふれた放課後』の断片は、厚いカーテンに遮られた文芸部室の静寂を、より ...
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これより先は官能の聖域。18歳未満の入室は禁じます。貴方に、その覚悟はおありかしら? |